登山技術・知識 How To

テント泊を始める方へ~必要な装備リスト~入門編

テント泊をこれから始められる方に対して「最低限何を揃えたら良いのか?」が分かるように、またすでにテント泊を始めていらっしゃる方には「持ち物チェックリスト」として活用いただけるように書いています。

トップの画像は冬ですが、ここで挙げるリストは6月初夏~9月晩夏の標高1,500m~3,000mくらいにあるテント場泊まりを想定しました。

<必要な道具リスト>

① テント

当たり前ですがまずはテントです。これから購入される方にアドバイスします。
まずテントの構造の違いには大きく2種類があります。1つは自立式か非自立式か?自立式は骨組み(ポール)を組み立てるだけでシェルターとしての形を保持できるものであり、非自立式は骨組み(ポール)を組み立てただけでは形を保つことはできず四隅をペグと呼ばれる杭で地面に固定して初めて立つテントのことを指します。

自立式と非自立式のイメージです。緑色のテントはラインと呼ばれる細引き紐でテント生地を引っ張り地面にペグ(杭)を打ち込んで固定することで立ち上がっています

これについては迷わず自立式をお選びください。非自立式は基本的にキャンプ用テントだと思っていただいた方が良くて、日本の厳しい山岳環境の中で使用するには構造的に自立式が安全で快適です。

もう一つの違いはテントを構成する生地が1重なのか2重になっているのかです。1重構造はレインウェアなどで使われているのと同じ防水透湿素材で作られておりシングルウォールテントと呼ばれます。2重構造は薄手で軽量なナイロンやポリエステルのインナーテントに防水性のあるフライシートと呼ばれる丈夫な布を被せて2重構造とするダブルウォールテントと呼ばれます。

1重構造のシングルウォールテント 雨雪に負けない防水透湿素材で作られていることが多い

2重構造のダブルウォールテント。外側のフライシートが雨が降ってもテント内に水の侵入を防ぐための防水性能を持つ。

 

 

 

 

 

 

この2種類の特徴を簡単にお話しすると、以下の様になります。

シングルウォールダブルウォール
メリットデメリットメリットデメリット
・構造が簡単なので設営・撤収がラク
・生地が1枚だけなのでその分軽く持ち運びもコンパクト
・狭いスペースでも張れるので混雑したテント場でも安心
・内外の温度差による結露が発生する
・外の音(雨や風、他の登山者の声など)が良く聞こえるのでうるさい
・ダブルウォールに比べると気温が低いときはちょっと寒い
・入口を空けたときに雨が振り込んでくる
・突然の雨や朝露から守るためにすべての荷物をテント内に収納しなければならない
・2重構造なので二重サッシと同じく結露がしにくい
・シングルウォールと比べると防音・防寒性が高く快適
・雨の日にはインナーテントとフライシートの間の前室(土間部分)で調理ができる
・前室(土間部分)に靴やザックなど汚れ物を天候を気にせずに置いておける
・シングルウォールに比べると設営・撤収に時間が掛かる(悪天候時はハンデ)
・生地が2枚なのでその分重く、嵩張る

これに関してもずばりダブルウォールをお選びください。

よって構造的に最初に手にするのに適したテントは「自立式」で「ダブルウォール」です。

次に考えるのが何人用にするか?ですが、今後ソロでしか使うことがなく100gでも荷物を軽くしたいのであれば1人用を、今後は誰かと2人で共同装備で行くかもしれないとか100~200g程度の違いならばテント内は広々と使いたいという方は2人用を選ぶと良いでしょう。
昔と違い最近のテントはかなり軽くなっていますので、私は1人でも2人用を使っています。

また選ぶ際に気を付けて欲しいポイントはメーカーと重量、そして収納した際のコンパクトさです。日本アルプスなど3,000m級の山々の気象を知り尽くしている山岳専門メーカーであること、重量は1人用で1.5kg程度、2人用で1.7kg以下であること、収納時のコンパクトさは実際にお店で確かめて自分のザックに入る大きさであることが大事です。ちなみに自立式・ダブルウォールテントであっても、それらの条件を満たしていないキャンプ用とかバイクツーリング用(または筋トレ用)のものが市場には多く出回っていますので注意してください。

それらを考慮して私がお奨めするとしたらこんなテントです。

 

モンベルのド定番テント※フライシートは別売なので注意

モンベルのステラリッジ別売りのフライシート。他の色もあるのでお好きな色をどうぞ

昔から多くの人に使われている王道テント。私も一番最初に買ったのがこれ

人気沸騰中のテント。価格が高い!がモノは良い

大学山岳部御用達のダンロップが作った新ブランド プロモンテのテント

私が現在メインで使用しているテントです。品薄でなかなか手に入らないのが難点

② グランウンドシート

テントの下に敷くテント生地より厚めに丈夫に作られたシートです。インナーテントの底が地面の尖った砂利や枝で破れない様に保護する役目や雨が降った時に床の防水性を高める効果、また晴れた日であってもインナーテントが汚れないようにする役目を持っています。

以前メーカーの方に「テントの修理で一番多いのがインナーテントの底に穴が開いた」ものだと聞いたことがあります。長く大切に使うためにも若干荷物にはなりますが私は強くお奨めします。

ご自身のテントにぴったりとサイズの合ったメーカー純正のものをお求めください。

③ シュラフ(寝袋)

シュラフの選び方は「適用温度(季節)」「重量」「収納時のコンパクトさ」の3点です。

まず適用温度(季節)ですが、シュラフってそれなりに高い買いものですから季節ごとに用意するのは難しいですよね。ですのでお奨めは春~秋(無積雪期)とより長い時期に使える3シーズン用のシュラフです。それを探すには各メーカーのカタログで「快適温度」が何度になっているかを見てください。温度表記については色々と細かい話があるのですが、ここではややこしいことは省略してざっくり言いますと、最初は快適温度が5℃程度のものを選んでもらえれば「寒くて凍えて一睡も出来なかった」なんてことは起きにくいと思います。標高2,000m以下でしか泊まらないよという方であれば10℃程度でもOKですが、例えばみんなの憧れ「アルプスの稜線のテント場(360°パノラマの絶景テント場!)にも行ってみたい!」という方はやはり5℃程度まで快適に対応できるシュラフが安心です。
しかしですね、快適温度というのはかなり個人差があって、その人の寒さ耐性によって大きく感じ方が変わりますので、上述の基準で選んだとしても「自分には5℃対応でもまだ寒い」とか「10℃対応でも暑すぎる」とかあるんですよね、どうしても。ですのでやっぱり最終的には一度テント泊をしてみて自分の寒さ耐性を知っていただき、購入したシュラフで寒ければ防寒着を着込んで対応し、暑ければ下着で寝るとかして、次に買い替えるときに自分に正確に合ったものを買うという感じでお考えください。

「重量」と「収納時のコンパクトさ」は価格との比例関係です。安い化繊綿を使ったシュラフは1kgをゆうに超え、収納時もザックがそれだけで埋まるほどの大きさなので基本オートキャンプ用だと思ってください。衣食住すべてを己が担いで歩く山岳シュラフは軽くて小さく収まる天然ダウン(高級品はグースダウン、普通でダックダウン)が必須、それもFP(フィルパワー)で表記される数字が大きいほど少ないダウン量でも暖かさを得られるため、結果軽くコンパクトなシュラフとなります(普通の目安が600FP、高級品は800~900FP)ので予算が許す限り数値の高いものをお選びください。山では軽さは正義です!
重量は500g程度を基準とし、コンパクトさはテントと同じく実際にお店でお確かめください。

最後に一つ、最近は天然ダウン(羽毛)にテフロンなどの撥水効果を持たせた製品が多く出てきています。高価なのですが予算内であればお奨めします。というのも天然ダウンの大敵は水です。ザックカバーをしていたのにザックの中身が濡れてしまったとか、シュラフが外から雨が降りこんで少し湿ってしまった、夏の雨天で湿度が高く湿気てしまった、寝ている時に体から発散される汗で湿ってしまった等々、山ではあるあるのことなのですが、このあるあるによって天然ダウンが水分を含むと羽毛のふくらみが萎んでしまい、結果羽毛の中でため込む暖かい空気の量が少なくなってしまいます。ですので天然ダウンシュラフは湿気れば湿気るほど暖かさが失われていくのです(ダウンジャケットも同じですよ)。この弱点を補うのが羽毛1本1本に施す撥水加工なのです。

それらを加味して私がお奨めするシュラフはこんな感じです。

 

私が3シーズンで使用しているシュラフ。表生地が防水透湿素材のためシュラフカバー要らずで、羽毛ダウンに強力な撥水加工がされている優れもの。モンベルなのに高い!


シュラフ界のMade in JAPANの代名詞、最も人気のブランド「ナンガ」


コスパNo.1ブランド、イスカ

 

④ シュラフマット

シュラフマットとは、地面の凹凸や落ちている砂利、草、枝などそのまま座ったり寝転んだりすると体が痛くなってしまうところをクッション代わりになってくれて、さらに地面の寒気を遮る断熱材の代わりにもなるものです。言ってみれば睡眠の質に影響するものです。

これも構造的にいろいろと種類があるのですが、ここでは無積雪期用の説明ですのでうんちくは言いません。耐久性のある山岳メーカー製で軽くコンパクトなものであればなんでも良いです。そんなに値段を掛けなくても良いです(安いものでもそこそこしますが)。Amazonとかで中華製の安いものを買うと、いざ山で空気が漏れてしまい(または普通に体重掛けたら破裂したとか)小石が背中に刺さって痛くて寝れない!または地面から寒気が体に伝わって寒すぎる!なんてことになります。

私のお奨めはこんなところです。

 

破損の心配が無いクローズドセルマット。使う時は広げるだけ、片づけは折りたたむだけなので取り扱いが超簡単!持ち運びはザックに外付け


人気のサーマレストのエアマット


この価格で作れるのはモンベルくらい!?

 

⑤ ガスバーナー

最近はテント泊でも食事を提供してくれる山小屋が増えていますので、荷物を極力軽くしたいという方はそれを利用するのも一つの手だと思います。
特に山小屋も一部の人気山域を除けば経営は苦しいようで(コロナでさらにですよね)、テント泊でも食事を頼むなどお金を使った方がいいなと思っています。もし今ある山小屋が無くなれば(または従業員が減れば)、登山道への整備は自治体の手だけではとうてい間に合いませんのでどんどん荒れるでしょうし、事故遭難時の救命救助における大きな機能を失うことになりますので、結局は我々登山者に帰属する問題なんですよね。

とは言え自分でお湯を沸かす・調理することもテント泊の楽しさだったりしますので、必要に応じてご用意ください。登山用品店で扱っている登山用のガスバーナーであればシュラフマットと同じく何でもOKです。

バーナーの使用に慣れて「〇泊ならどれくらいのガス燃料が必要か?」が分かるようになるまではガス缶は予備を持って行った方が良いです。さあご飯を作ろうと思ったときにガスが無くなり、「仕方が無いので乾麺にスープの粉末を掛けてそのままかじった」なんてことも良くある失敗談ですからね。
さらにガス缶は極力、バーナーと同じメーカーのものをご用意ください。ガス燃料の成分配合量はメーカー毎に異なり、メーカーは自社のガス燃料を完全燃焼できるようにバーナーを調整していますので、他社のガス缶を使用すると不完全燃焼し火力が得られないとか故障の原因になります。(現地調達やその場でパーティー内で貸し借りとたまに他社製を使う時はありますが、継続的に使うことはお奨めしません)

参考までに私が所有するものを幾つか下に貼っておきます。

 

風に強いオーソドックスなガスバーナー。どんなコッヘルにも対応するので万人にお奨め


ジェットボイルは基本湯沸かし専用の製品だったが、このモデルは形状が口広・底浅の鍋型として簡単な調理程度なら対応できるようになった。ちなみに沸騰までの時間はジェットボイルがバーナー界最速。ちなみに風にはそれほど強くないのであまり期待しない方が良い。少ない火力で調理できるためガス燃料の節約にもなるのは大きなアドバンテージ。一応、付属のゴトクを使えば専用コッヘル以外でも使用することができるのだがそれではジェットボイルである意味が無い


最も風に強いバーナーです。強風の山頂でも余裕でお湯を沸かせます。私が使用しているのがこれですが、湯沸かしメインの製品。付属のコッヘル以外は使用できないがオプションで鍋やフライパンが用意されている

 

⑥ コッヘルとカラトリー

お湯を沸かしたり調理に必要な鍋orフライパンと食器、箸・フォーク・スプーンのことです。

コッヘルを選ぶポイントはまず材質の違いがあります。一番軽いのはチタンですが焦げ付きやすいので基本湯沸かし専用です。次に軽いのがアルミです。アルミは丈夫で値段もお手ごろ、それでいて調理に向いています。調理される方はアルミで内側にフッ素やテフロン加工しているものを選ぶと焦げ付かず後始末も簡単で良いでしょう。ちなみにキャンプではよく使われるステンレス製は登山向きではありません。

大きさは沸かす・作る分量や料理に合わせて決めていただければ良いです。

そしてカラトリー(箸・フォーク・スプーン)はそれこそ100円均一でもいいですね。

こちらも参考までに私のもっているものを載せておきます。

 

私はこれをSOTOのウインドマスターSOD-310と合わせて使用しています

 

<あったら便利な道具リスト>

ここからはテント泊をより快適に行うために用意した方が良いものをお伝えします。とにかく軽さを求めるスピードハイキング派や「山は忍耐」という山岳会系には無縁なものですが、私は季節や当日の気象次第で持っていくようにしているものです。

⑦ シュラフカバー

シュラフに被せることで外側からの濡れ(降り込む雨や結露の雫)から防ぐためのカバーです。また自分が所有するシュラフでは少し寒いかな?という時に使うと一段階厚手のシュラフと同じ保温性を得ることもできます。

例えばシュラフは低山で使うことも考えて10℃対応くらいのものを購入しておいて、2,000mを超える高地での泊りの時にはシュラフカバーを持っていき寒さに対応するというのも一つの手段です。

これも安価なものは重く嵩張り、軽くコンパクトなものは高価ですが、軽さは正義!なので可能な限り後者を選ぶと良いでしょう。

⑧ 防寒着(いつもより厚手のものを)

テントも山小屋と同じく屋根の下ではありますが、中の気温は雲泥の差があります。今まで小屋泊しか経験が無い方であれば、真夏でも日が沈むと東京の真冬並みの寒さまで気温が落ちるのには最初は驚くでしょう。
ですので小屋泊の時よりも防寒着は一枚多く(または厚手のもの)をご用意ください。

そしてアルプス稜線など森林限界を超えた高地での宿泊であると便利なのがダウンブーツです。まあ言っても夏ですのでそんなに大げさなものでなくて良いので、それこそAmazonで化繊綿の安価なものでも手に入れておくと便利です。

 

⑨ ランタン

日が暮れてからテントの前室で食事を作る時、またはテントの中で寝るまでの間、本を読んだり地図を眺めたりとくつろぐ時にあると便利なのがランタンです。しかし無くてもヘッドランプがあれば特段困るものでも無いのであまり重量や大きさは取りたくないところ。そんな時にお奨めのキャンプ用ではない登山用のランタンを幾つかご紹介します。※体力とザックのスペースに余裕がある人向けです。

 

モンベルのちょうどいい明るさと大きさのランタン


ヘッドランプに被せることで光を優しく乱反射させてランタンにすることができる便利なランプシェード。当たり前ですが軽く小さくなるので私はこれを常備しています

 

⑩ 浄水器

テント場によっては山小屋から分けていただける水が、豊富な流水の沢からくみ上げた美味しい天然水ではなく、雨水を貯めたもの(煮沸済み)であったり雪渓の雪解け水だったりすることがあります。
気にしない方であれば良いのですが、私は山歴が長いにも関わらず水にカスが浮かんでいたり臭みがあるとダメな軟弱者です。(それしかなければ我慢して飲めますが、不快です)

予めそういう状況だという情報がある時にはコンパクトな浄水器を持って行くようにしています。これだけでだいぶ味や鮮度が変わります。※体力とザックのスペースに余裕がある人向けです。

 

今ざっと思いつくのはこんなところですが、この記事は今後も気づいたことがあるたびに随時更新していきます。

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